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「藤本繁蔵の鮨」その2 [鮨]

僕が雑誌「オプラ」(講談社)2004年6月号に書いた記事
『藤本繁蔵の鮨』の抜粋を数回に分けて、掲載することにしました。
14年前に書かれた記事ですから、
すでに故人となられた方の証言も含まれていることを
予めお断りしておきます。

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藤本繁蔵と出会った人々が、まず驚かされるのは、その魚を見抜く目の確かさである。
漁師町に育ち、戦後の一時期は鮮魚の行商をして生計を立てていた日暮静江さんはこう言う。
「魚の目利き?そりゃあ大変なもんでしたよ。赤貝は50匁玉、アナゴは20匁、ヒラメは2キロ、
それより大きくても小さくてもダメ。アワビは大原(千葉県)のもの以外は使わない。
マグロについては『築地にも本当にいいのは年に何回しか入らない』っていつも言ってましたよ。
そのくらい厳しい目をしてた」(中略)

藤本の最古参の弟子、鈴木民部さんの証言はさらに凄い。
「昔の河岸(魚市場)は今みたいにきちんと整理してなくて、魚が雑然と置いてある。
親方(藤本)はそこで山盛りになってる白魚の中から、1尾ずつオスとメスを見分けて、
オスだけを買ってくるんです」
わずか数センチしかない白魚の雌雄を一瞬にして見分けるというのだから、ただごとではない。
「魚については一切妥協しない。本当に魚屋泣かせな人ですよ。
マグロなんてブロックをそのまま買うものなのに、あの人はテンパ(天端=ブロックの上の部分)と
血合いはいらないって、その場で切り落とさせて四角い形にして買うんだからね」(中略)

そして握り。こちらにも驚くべき逸話が残っている。
「普通なら4、5手はかかる手返しを僅か1手で握った」(中略)
俄かには信じられない話。だが、それを鈴木民部氏に問うと「ええ、本当の話です」と
平然とした顔で頷くのである。
「普通の職人には無理。でも親方にはできるんです」

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鮨の形は六面体。その6つの面をきちんと整えるために、
掌の上で鮨を持ちかえながら握る作業のことを手返しと呼ぶ。
一般の鮨職人であればこれを何回も繰り返すところを、藤本繁蔵はただの1回でこなしたという。
「親方の握り方は、他の人とは全然違う。小指を利かせるんです」

手返しの時、ほとんどの職人は人差し指、中指、親指の3本でつまんで持ち、鮨の向きを変える。
ところが鈴木氏によれば、藤本は掌の鮨を小指1本で弾くだけで、向きを変えてしまうというのだ。
「手返しの数が多いと魚に体温が移る。だから少しでも早く握るために、
小指を利かすことを思いついたんでしょう」

その技を継承しているという鈴木氏に、実際にその“小指返し”を実演してもらって仰天した。
まるで手品のように小指1本で鮨がくるりとターンして、前後が入れ替わってしまうのである。
思わず、誹風柳多留の「妖術という身で握るすしの飯」という川柳が頭に浮んだ。

http://hikari-h.blog.so-net.ne.jp/2018-03-12
( ↑ 続きです)

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